陸軍戦闘機(キ87)

キ87は隼、鍾馗、疾風といった中島戦闘機のデザインをくむフォルムだが、排気タービン、気密室を装備するため全備重量6トンを超える超大型戦闘機となった。

陸軍戦闘機(キ87)諸元

陸軍戦闘機(キ87)

エンジン空冷18気筒 中島ハ219ル(離昇馬力2,450HP/2,800r.p.m 公称馬力2,040HP/11,000m)
最大速度706km/h(高度10,000m)
航続距離1,650~3,170km
全幅13.423m
全長11.82m
全高4.50m
主翼面積26.0㎡
自重4,383kg
全備重量6,100kg
上昇時間10,000mまで14分12秒
実用上昇限度12,855m
武装30mm機関砲×2、20mm機関砲×2
爆弾250kg~900kg

陸軍戦闘機(キ83) こぼれ話

キ84疾風の発展形とも言えるキ87は、B29を迎撃するための高々度性能と強力な武装が求められた。エンジンはハ45より一回り大きいハ44(社内呼称BH)が選ばれ排気タービンが装備された。ハ44はハ45に比べて直径が10cm大きいだけだが、総排気量で34.6%大きく、離昇馬力で22.5%大きい。そのかわり、エンジンの乾燥重量も37.7%重くなっていて、風防前面の防弾ガラスや操縦席の防弾板などの防弾装備を強化したこともあって重量級の戦闘機になることは間違いなかった。出来上がった機体はアメリカのP47サンダーボルトよりは幾分小さいが、グラマンF6Fヘルキャットと比べると翼面積では5㎡小さいが、重量は300kg以上重たい。

高々度戦闘にかかせないのは与圧コクピットである。高度10,000mにもなると空気は地表の約3分の1の密度しかないのでエンジンも性能ががた落ちになるが、人間はもっと影響が出てくる。エベレスト山に無酸素で登頂というのは何日もかけて体を高度に慣らして行われるが、飛行機で1時間以内にエベレスト山より高く上がってしまうと高山病に罹り、へたをすると命を落としかねない。したがって、高空を飛ぶB29などは乗員区画を高度3,000m位に与圧していた。コンプレッサーで圧縮し、温度を下げてから区画内に放出していたので、搭乗員はTシャツ1枚で勤務していたという。撃墜されたB29の搭乗員がシャツ1枚だったのを見て、アメリカは飛行服1枚にも困っている状態だ、これならアメリカに勝てるぞとのんきな見解を言った上官がいたという笑い話が残っている。真実は全く逆で、軽装で任務に付けるくらい装備が整っていたといことだ。

キ87も他の機種と同様排気ガスタービンの不調で満足なテスト飛行もできていない。排気ガスタービンの装備位置が機首近くの側面ということもあり、冷却方法の不備も重なってタービンが過熱気味であったのが原因だと言われている。加えて、キ87の外形的特徴の一つである脚収納方法がうまくいかず、テスト飛行はすべて脚出し状態で行われた。機構はアメリカ陸軍のカーチスP40ウォーホークと同じ型式で、軸を90度回転させて主翼後縁方向へ収納する。この方式は脚と主翼の桁との干渉を避けるためと主翼燃料タンクの増大を図るために採用したものだが、ただでさえ日本機は脚構造が弱く折損事故が多発していたのでキ87の脚がうまく作動するには相当時間を要したと思われる。