陸軍戦闘機(キ64)

キ64は2,000馬力級のエンジンが開発されていなかった頃、時速700kmの壁を破ろうと計画された機体である。当時の最先端技術を盛り込んで、何とか目標を達成しようとした意欲作だ。

陸軍戦闘機(キ64)諸元

陸軍戦闘機(キ64)

エンジン液冷倒立V型24気筒 川崎ハ201(ハ40を串形に配置 離昇馬力2,350HP/2,500r.p.m 公称馬力2,200HP/3,900m)
最大速度690km/h(5,000m)
航続距離1,000km
全幅13.50m
全長11.03m
全高4.25m
主翼面積28.0㎡
自重4,050kg
全備重量5,100kg
上昇時間5,000mまで5分30秒
実用上昇限度12,000m
武装20mm機関砲×2または4

陸軍戦闘機(キ64) こぼれ話

キ64は昭和15年10月に開発が開始された最高速度700km/h以上を狙った高速重戦闘機である。キ60、キ61の流れをくむ機体でキ61に搭載されたハ40を操縦席を挟んで串形に配置する変則的なエンジンレイアウトで高速に挑んだ。2基のエンジンを縦にレイアウトすることで前面面積をエンジン1台分、つまり単発機と同じ前面面積にすることができ、さらに、冷却法として最も空気抵抗が少ない蒸気式表面冷却(ドイツから輸入したハインケルHe119爆撃機やHe100戦闘機に使用されていたものを参考にした)を取り入れ、高速化を推進した。蒸気式表面冷却法は、エンジンのウォータージャケット内の冷却水に通常の3倍の圧力を掛けて沸点を上げ、常圧より多くの熱を奪うようにし、ウォータージャケットから出てきたところで急激に圧力を下げると一部は蒸気になって冷却水から潜熱を奪う仕組みである。この方法により、冷却器が不要となり空気抵抗の大幅な減少になると考えられたが、実際の空戦で主翼に張り巡らされた冷却装置に被弾する可能性が高く、実用的ではないとの意見があった。ただし、通常の冷却器に被弾すれば一気に水が無くなりエンジンが焼き付いてストップしてしまうが、蒸気式表面冷却法は全冷却水量の50分の1程度の蒸気が抜けるだけなので急激なエンジンの焼き付きはなく、かえって安全だという考え方もあった。

キ64のもうひとつの特徴は、二重反転プロペラを採用したことである。前部エンジンのシャフトを中空にして後部エンジンのシャフトを通し、それぞれプロペラを逆方向に回転させるようにしたのだが、プロペラ技術が後れていた日本は前方のプロペラは固定ピッチで、後方のプロペラが可変ピッチという変則装備となった。このため、テスト飛行では前後のプロペラ回転数が合わずパイロットは飛行するのに苦労したようだ。

苦肉の策である串形エンジンは、元を正せば大出力のエンジンが開発当時無かったことが原因である。1,000馬力エンジン2基より2,000馬力エンジン1基のほうが軽いのは当たり前で、ロールスロイスやダイムラーベンツはマーリンやDB601をどんどん発展させて出力をアップしていったが、日本の液冷エンジンはコピーの域からついに抜け出すことはなかった。