水上戦闘機(強風)

紫電、紫電改の元になった機体が強風だが、開発時期、エンジンや胴体形状の似通った機体に雷電がある。水上機と陸上機の違いはあるが、見比べると興味深い。

水上戦闘機(強風)一一型諸元

水上戦闘機(強風)

エンジン空冷14気筒 三菱火星一三型(離昇馬力1,460HP/2,450r.p.m 公称馬力1,300HP/6,000m)
最大速度488.9km/h(4,550m)
航続距離1,060km
全幅12.00m
全長10.59m
全高4.75m
主翼面積23.50㎡
自重2,700kg
全備重量3,500kg
上昇時間4,000mまで4分11秒
実用上昇限度10,560m
武装翼内20mm機銃×2(携行弾数各60発)機首7.7mm機銃×2(携行弾数各500発)
爆弾30kg×2

水上戦闘機(強風) こぼれ話

局地戦闘機雷電と同じ火星エンジンを搭載する水上戦闘機(強風)ではあるが、水上機なので着水速度など水上機ならではの制限があるため求められた性格は違っていた。川西航空機のチーフデザイナーである菊原技師は水上機ではあったが初めての戦闘機に新しい技術を試みた。1,400馬力級火星エンジンの大きなトルクを打ち消すために、二重反転プロペラを採用した。離着陸時の姿勢制御は陸上機に比べて水上機は格段に気を遣うため、大きなトルクが発生するであろう水上戦闘機(強風)には二重反転プロペラが適していると考えた。菊原技師の考えは正しかったが、当時の日本の技術では信頼性の高い二重反転プロペラの機構は難しく、三菱もさすがに手こずり結果的には試作2号機から通常のプロペラに変更している。もうひとつの新機軸は空戦フラップである。零戦より大きなエンジンを搭載(おまけに重たいフロートも装備)しているので格闘性能は零戦より劣っていて当たり前だが、海軍は零戦にぞっこんであったがため何かに付け零戦の格闘性能を引き合いに出し設計者を悩ましていた。そこで少しでも零戦に近づけるために、離着陸時に使用するフラップを空戦時にも使って格闘性能を引き上げることを考えた。空戦フラップはそれより以前に中島飛行機の糸川技師が考案した蝶型フラップがあったが、どの戦闘速度も同じフラップ角だったので適切な揚抗比となる速度範囲は狭かった。空戦時は右手は操縦桿、左手はスロットルと機銃銃把、両足はペダル、目は相手戦闘機と大忙しなので空戦フラップは自動的に出し入れができなければならないと考えた。そこで速度計用のピートー管と水銀の入った容器を結んでやると飛行機の速度に応じた水銀柱の高さが得られるので、水銀柱容器内に電極を2本セットすると、水銀柱の高さに応じて2本とも水銀柱に触れている状態、1本しか触れていない状態、2本とも触れていない状態ができ、それぞれフラップ上げ、静止、フラップ下げとしてフラップ動作のメカニズムを作動させる装置を作り上げた。強風に装着して試験を繰り返し紫電改の試作機にも装備されてテストが行われた。