空力

飛行機の設計は用兵側の要求、例えば1万メートルまで15分で上昇できる迎撃機が欲しい、爆弾を4トン搭載して行動半径2500kmの爆撃機が欲しいなど、に沿って行われる。その機体の用途によって設計の仕方も当然変わってくる。諸元が決定するとそこから導き出される係数は、どういう性格の飛行機なのかを推測する上で重要な値である。

翼面荷重

全備重量(kg)を主翼面積(㎡)で割った値(つまりkg/㎡という単位になる)。低翼面荷重の飛行機は離着陸距離が短い、上昇率が大きい、旋回半径が小さいなどの特徴がある。飛行機を支える揚力は速度の2剰、翼面積に比例するので低翼面荷重の飛行機は揚力の多くを主翼から得ていることになる。逆に高翼面荷重の飛行機は速度を上げることにより小さな主翼面積でも機体を支えるだけの揚力を得ていることになる。

飛行機が発達、高性能化、重武装化するにつれて翼面荷重は大きくなっている。第1次世界大戦で使用された戦闘機は、最高速度が200km/h弱、航続距離500km前後、7.7mm機銃2丁であったが、第2次世界大戦末では、最高速度は700km/hを超え、飛行機によっては航続距離が3,000kmを超え、武装も12.7mm6丁とか20mm4丁と重装備となっている。速度を速めるためにはより強力なエンジン(当然排気量が増して重たくなる)が必要で、航続距離を伸ばそうとすれば燃料を多く搭載しなければならず、武装が強力になれば銃器も重くなり、重量が増えるのは必然である。重量が増えた機体を支えるために翼面積で揚力を稼ごうとすれば巨大な主要が必要となりさらに重量が増えることとなる。そうなれば速度を増して機体を支えるほうが抵抗も少なくできるのでより良い選択となる。

翼幅荷重

全備重量(kg)を主翼全幅(m)で割った値(つまりkg/mという単位になる)。

レシプロ機のようにあまり高速で飛行しない場合は全機の抗力に対して誘導抗力の占める割合が大きく、誘導抗力は翼幅荷重の2乗に比例するするため翼幅荷重を小さくすれば結果的に抗力を減ずることができるという考え方から、主翼のアスペクト比を大きくした戦闘機が作られた。すなわちフォッケウルフTa-153であり、三式戦闘機飛燕である。アスペクト比を大きくするのは抗力を減ずるばかりでなく、エルロンのモーメントが大きくなるので横転速度が速くなる。

失速

過給器

飛行機の翼は迎え角を大きくするとより大きな揚力が得られる。ところがある角度を超えると急激に揚力が低下し、抗力は逆に高くなる。これは迎え角が大きくなったことでそれまで翼表面に沿って流れていた空気が表面からはがれてしまい揚力を発生していた翼の表面積が少なくなったのが原因である。失速したからといって即墜落するわけではなく、適正な迎え角になるように機体を操縦してやれば失速から回復できる。

層流翼

主翼表面の空気はどの地点でも均一に流れているわけではない。表面の流れは層流境界層と乱流境界層とに分けることができる。層流境界層は翼表面との速度差があまり無いため摩擦抵抗が少ない。逆に乱流境界層は流体の渦運動で速度の大きい流れと翼表面近くの速度の遅い流れが混ざり合って摩擦抵抗が大きくなる。主翼を設計するときに乱流境界層が起きるポイントをできるだけ遅らせる(翼後縁に近づける)翼型を採用するのが望ましい。そこで従来の翼型に比べ、翼前縁半径を小さくして最大翼厚を翼弦の40%付近に持ってきた翼型が開発された。層流翼は層流が乱流へ変わる位置が後ろにあり、抵抗を低く抑えることができた。

アメリカのNACA(NASA(アメリカ航空宇宙局)の前身)が新しい層流翼の研究を発表していたが、大戦のきな臭い臭いが漂い始めると研究結果の発表も遅れだした。日本では東京大学の谷教授(川西航空機の菊原技師と同窓)が菊原技師の要求に応えてLB翼(層流翼)の研究結果をどんどん発表していた。LB翼とNACAの層流翼はよく似ていて谷教授がどしどし発表するので気が気でなかったと、戦後NACAが谷教授に話したという後日談がある。

フラッター

主翼や尾翼、補助翼などは高速飛行時に空気の流れが常にぶつかっているが、その構造が弱いと空気の流れによって振動が増幅され、最悪の場合は構造体を破壊してしまう。その振動をフラッターといい、振動が激しくなることをフラッター現象という。

フラッターによる飛行機の事故としては零式艦上戦闘機の試作機が有名である。海軍の過大な要求によって強度をギリギリまで落とした零戦は構造的に余裕が無く2度の空中分解事故を起こしている。速度が速ければフラッターを起こす可能性が高くなり、零戦の事故も急降下テストの最中に起きている。

2,000馬力級のエンジンを積み、機体構造も頑丈に設計されていた紫電改も訓練中に空中分解の事故を起こしている。テスト飛行では400ノット毎時(約740km/h)を超えるダイブでもびくともしなかった機体が、それよりずっと低い速度域でフラッターが原因と思われる空中分解を起こしパイロットが殉職している。遷音速域ではフラッター速度が低下することが分かったのは戦後のことである。