記号・呼称

陸軍と海軍はそれぞれが機体の開発をメーカーに発注していたので、統合された整理記号などは存在しない。ただし、エンジンは大戦途中で陸海軍統一名称が採用され、「ハ○○」と表示されるようになるが、陸軍は最初からエンジン(発動機)記号を「ハ」で呼んでいたため紛らわしくなっている。統一呼称が採用されても実際のエンジンは細かなところが陸軍仕様、海軍仕様(例えばエンジン補機類の取り付け位置が逆)となっており、完全互換性はなかった。どれだけ生産性を落としたか知れず、ばかげた縄張り意識で戦争をしたものだとつくずくあきれてしまう。

陸軍機

1932年(昭和7年、皇紀2592年)三菱に発注した九三式重爆撃機に対して初めて「キ」番号が振られる。この「キ」というのは機体の「き」である。キ番号はキ120まで連番で振られ、その後は128、148、167、174、200、201、202で終わっている。
昭和16年(皇紀2601年)の制式機となった一式戦闘機から愛称が付けられるようになった。発案者は航本報道官西原勝少佐で、一般国民に対する宣伝用に考え出されたものだが特に命名の決まりはない。「素早い」「力強い」イメージを鳥や龍、風などに関連する言葉を使って耳障りのよい単語にしている。
エンジン換装などの大改修があった場合は型番の数字が増え(1型から2型など)、武装変更など小改造に対しては甲、乙、丙、丁・・・・が附された。少しややこしいが、小改造の程度が大改造ほどではないがそこそこ大きい改修である場合、「改」を附す場合がある。

海軍機

陸軍に比べて用途別の機体が多くあってか、系統立ててよく分類されているように思う。試作機番号は、昭和の年数を頭にして次に機体の種類、そして昭和14年頃以降は愛称も試作機に与えられるようになっている。
「17試 艦上戦闘機 烈風」は昭和17年に試作命令を出した艦上戦闘機で愛称を烈風とする、という意味である。さらに、各機体の設計担当会社や改造状況が分かるように記号が定められていた。

機種 機種記号 機種記号 会社符号
艦上戦闘機 三菱重工
艦上攻撃機 中島飛行機 N
艦上偵察機 C 愛知航空機 A
艦上爆撃機 D 川西航空機 K
水上偵察機 E 渡辺鉄工所(後の九州飛行機) W
水上観測機 F 広工廠(後の第二空技廠) H
陸上攻撃機 G 石川島飛行機(後の立川飛行機) I
飛行艇 H 日本小型飛行機 J
陸上戦闘機 J 日本飛行機 P
練習機 K 佐世保工廠(後の第三空技廠) S
輸送機 L 昭和飛行機 Si
特殊機 M 横須賀工廠(後の空技廠) Y
水上戦闘機 N 日立航空機
陸上爆撃機 P 美津濃 Z
哨戒機 Q

零式艦上戦闘機のA6M5は「A6」=艦上戦闘機で6番目の開発機体、「M5」=三菱重工設計の機体で5回目の改造機体であることを表している。改造が連番を変えるほど大きくない場合は、英小文字(a、b、c・・・・)が最後尾に付けられる。また、川西航空機設計の水上戦闘機強風から局地戦闘機紫電のように大改造で機種が変わってしまった場合は、N1K1(強風)からN1K1-J(紫電)となり紫電の改造型である紫電改はN1K2-Jというように末尾にダッシュを付けて改造機であることが分かるようになっている。また、大改造前の設計会社と異なる設計会社が改造を行った場合でも元の設計会社の記号が継承される。二式水上戦闘機は三菱設計の零式艦上戦闘機11型をベースに中島飛行機が水上戦闘機に改造したもので、記号はA6M2-Nと三菱のMはそのままで水上戦闘機を表すNが後尾に付けられる。

零戦21型、52型というのは、零戦11型(原型)から機体改造を1回実施したものが21型、機体改造を4回改造し、エンジン換装を1回したものが52型となる。つまり十の位は機体改造回数を一の位はエンジン換装回数を表している。この型番号を多く持つ機体は、優秀な設計だったので長く改造されながら使用されたものか、逆に機体もエンジンもいろいろ触ってもなかなかモノにならなかった機体か、のどちらかである。前者は零戦であり、後者は雷電である。

陸軍機に習って海軍機にも愛称が採用されたが、陸軍機と違って系統だって命名されていた。

機種 愛称 命名例
艦上戦闘機(甲戦闘機) 風にちなむもの 烈風、陣風
陸上戦闘機(乙戦闘機) 雷、電にちなむもの 雷電、紫電
夜間戦闘機(丙戦闘機) 光にちなむもの 月光、極光
攻撃機 山にちなむもの 天山、連山
偵察機 雲にちなむもの 彩雲、紫雲
爆撃機 星にちなむもの 彗星、流星
練習機 草、木にちなむもの 紅葉、白菊
輸送機 空にちなむもの 晴空、蒼空
特殊攻撃機 花にちなむもの 桜花、橘花
哨戒機 海洋にちなむもの 東海、大洋

陣風は川西航空機に発注された機体で、愛称からすると艦上戦闘機(甲戦)であるが、略号がJ6Kとなっていて陸上戦闘機(乙戦)を表している。要求性能などからあきらかに乙戦なのだがなぜか風にちなんだ愛称が付けられている。航空本部の混乱ぶりが窺える一例である。

流星は星にちなんだ愛称から爆撃機と思われているが、流星を開発するときに艦上攻撃機と艦上爆撃機の統合要請がありそれに応えた機体である。したがって、雷撃が可能であることから攻撃機に分類される。